例えば、大規模修繕工事を行おう際に、修繕積立金が不足していて出来ない。
現在広く採用されている輪番制の理事会方式の限界と3つの課題についてお話します。
知識も経験もなく、なにより仕事などで忙しく時間もない管理組合員が、仕事を抱えながら理事長をはじめとした理事会役員の役割を担うのは、そもそも無理があります。
理事会は、マンション管理における業務執行の意思決定機関です。
そして、理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括する立場です。
ですから、責任の重い職責を担うことになります。
マンション管理会社が作成した「輪番表」に従い、理事長や理事の管理組合役員の順番が回ってきたら、しぶしぶ引き受け、役員中の1年間、または2年間、過去と同じように、何事もなく終わることだけを願う。
ことさら新しいことには取り組まない。
実務的には、マンション管理会社にほぼ100%お任せで、管理会社の提案通りに各種業務の承認を行う。
1カ月または、2カ月に1度の頻度で開催される理事会に参加するのがやっとで、議案内容の良し悪しもよくわからず、管理会社の言うとおりにするのが時間もかからず無難なので、とりあえず承認しておく。
毎月の業務報告書と会計報告書も良くわからないが、承認印だけ捺印しておく。
こんな感じではないでしょうか?
よほどのことがない限り、管理会社の言うとおりにしておこうと思うのは当然です。
管理会社はマンション管理の専門事業者で、担当者も専門家です。
そのために、管理委託費を支払っているのだから、管理会社に任せておけばよい。
面倒なことには、あまり関わりたくない。管理会社は、ちゃんとやってくれるはず・・・
でも、本当にそれで良いのでしょうか?
例えば、大規模修繕工事を行おう際に、修繕積立金が不足していて出来ない。
こんな時、不足する修繕積立金を管理会社が補てんしてくれる訳ではありません。
不足する修繕積立金を一時金として追加徴収するのか、金融機関から借入するのか、工事実施時期を延期するのか、工事範囲を縮小するのか、などの意思決定は管理組合が行います。
管理組合員に、どのようにするのか代替案を提示し、意見調整するのは、理事会であり理事長です。
マンション管理会社の担当者は、効率的に仕事をこなし、目標の売上利益を達成することが求められています。
管理会社からすれば、例えば、マンションの将来ビジョン立案や、より良いコミュニティー作りなど、担当者に、効率の悪い仕事、金にならない仕事はあまりして欲しくないのです。
管理会社や担当者にとって、最も好ましいマンション管理組合は、100%お任せのマンション管理に無関心な組合員・理事会役員の多くいるマンションです。
100%提案通りに事が運び、効率的に仕事ができるからです。
なかには、多少割高な管理委託費や工事費用であっても承認され、不必要な作業仕様も削減されることなく、例年通りに売上予算の確保ができる。そんなことも可能となるからです。
数年に一度のペースで、数百万円から数千万円の工事売上を上げさせてくれるマンションが、最もおいしいお客さんです。
マンションも築20年、30年と経過すると、建物や設備の劣化が進み、いろいろな不具合が発生してきます。
修繕積立金も不足してきます。
また、賃貸化や空き家化などで、マンション管理組合の運営上の問題も発生してきます。
このような問題を輪番制の理事会で対応するのは、無理があります。
2020年には、築30年以上となるマンションは220万戸、実に総マンション戸数の3戸に1戸となります。
マンションも築20年、30年と経過すると、建物や設備の劣化のハード面だけでなく、管理運営のソフト面でもいろいろな問題が顕在化してきます。
12年から15年周期で行われるのが、大規模修繕工事です。
ほとんどのマンションでは、1回目の大規模修繕工事は、なんとか無事行われますが、問題は2回目以降の大規模修繕工事です。
(24年目~30年目)、(36年目~45年目)に行う大規模修繕工事は、修繕範囲も広がり、修繕方法も大がかりなものになってきます。その分費用もかさみます。
よく言われるのが、1回目は1戸当たり100万円、2回目は1戸当たり150万円、3回目は1戸当たり250万円の予算が必要と言われています。
例えば、戸数100戸のマンションでの必要予算は、次のようなります。
第1回大規模修繕工事・・・100万円 × 100戸 = 1億円
第2回大規模修繕工事・・・150万円 × 100戸 = 1億5千万円
第3回大規模修繕工事・・・250万円 × 100戸 = 2億5千万円
ところが、1回目の大規模修繕工事で修繕積立金は使い切り、ほとんど0円となります。
そこで、毎月徴収する修繕積立金を5年毎ぐらいに値上げするのですが、それでも足りません。
しかたなく、一時金を徴収したり、金融機関などから借入をしたり、修繕範囲を縮小したり、修繕方法を簡便にしたりするのです。
それでも実施できずに延期するという事態となれば、建物・設備の劣化がその間より急激に進行し、マンションの資産価値が大幅に減少することにもなりかねません。
エレベーターも30年頃を目安に、更新(取り替え)時期を迎えます。
更新方法にもよりますが、エレベーター1基につき、1,000万円から2,000万円必要となります。
タワーマンションの場合は、もっとかかります。エレベーター1基1億円とも言われています。
機械式駐車場も25年頃を目安に、更新(取り替え)時期を迎えます。
1パレット(台)当たり、100万~150万円必要となります。
50パレットあれば、5,000万円~7,500万円になります。
これらも大きな隠れ債務の一つです。
使われている材質にもよりますが、30年~40年頃を目安に更新(取り替え)時期を迎えます。
戸数や工事内容にもよりますが、数千万円~億円近く必要となります。
これも大きな隠れ債務です。
また、専有部分内にある給水管・排水管の更新工事は、どの範囲までを「自己負担とするのか」「組合負担とするのか」の問題もからんできます。
話は変わりますが、築年数が経過していくと、管理組合員である区分所有者が転勤や、他の家の購入などで転居するケースが増えてきます。
そこに、賃借人が住むケースも当然、増えてきます。
ちなみに築20年以上のマンションの賃貸化率は20%前後です。
1棟100戸のマンションであれば、20戸の割合です。
築年数が古いほど賃貸化率は高くなる傾向があります。
転居した区分所有者は、そこには住んでいませんので、なお一層、管理組合活動に無関心となります。
賃借人は、区分所有者ではありませんので、管理組合員でもありません。
賃借人は、いずれは転居するつもりですから、マンションに愛着もなく、建物設備への維持保全に関心はなく、共同生活のマナー面でも意識は低くなります。
さらに、賃借人も住まないで、空き家となり、区分所有者とも連絡が取れない。
区分所有者が亡くなり、空き家のまま、相続人も不明で、手の着けようがない。
このような空き家状態となると、管理費・修繕積立金も長期滞納の状態となり、隠れ債務の一因となります。
マンション管理会社は、考えてくれません。
本来は、管理組合員自身が考えるべきなのですが、知識も経験も時間も不足しています。
そこで、知識も経験もあり、仕事として時間を振り向ける事の出来るマンション管理士が、20年先、30年先を考え、管理組合に提案する仕組みが求められてきます。
マンションの老朽化とマンション住人の高齢化と言う「2つの老い」
建物の老朽化対策だけでなく、住人の高齢化も進み、「高齢者夫婦のみ世帯」、「高齢者単身世帯」の増加などに対応したハード・ソフト両面での対策が必要となってきます。
マンション老朽化とマンション住人の高齢化に伴う長期的課題を輪番制の理事会で対応するのは、やはり無理があります。
築30年、40年、50年もするとマンションの建物も設備も急速に老朽化し、陳腐化してきます。
維持修繕の為の費用は増大し、修繕積立金も大幅に不足してきます。
自分たちの住むマンションを最終的にどうするのか?
・建替えるのか?
・リノベーションを行い、長寿命化するのか?
・建物土地を一括売却するのか?
将来に対する合意形成を得る必要があり、合意形成することなく、結論を先延ばしすれば、手遅れとなり、マンションはスラム化していきます。
2020年には、65歳以上人口は3,600万人、実に3人に1人となります。
2025年には、いわゆる団塊世代の人々が、一気に75歳以上の後期高齢者になります。
2013年マンション総合調査によれば、マンションにおいても50%が60歳以上の世帯主です。実に2戸に1戸です。
また、60歳以上では、65%前後が「終の棲家」と考えています。
築年数の古いマンションでは、「高齢者夫婦のみ世帯」や「高齢者単身世帯」が激増しています。
また最近は、戸建ての住宅を売却し、バリアフリーな造りで、都心にも近く、生活に便利なマンションに移り住む高齢者世帯も増えています。
「高齢者単身世帯」は、いわゆる「孤独死」という事故につながる危険性もあります。
エレベーター、スロープ、手すりの設置など共用部分のバリアフリー化対応は、もちろんのこと、高齢者住人の日常生活を支えるコミュニティ作りも管理組合の重要な活動内容となってきます。
例えば、近隣住民も含めた、高齢者が参加する各種サークル活動やボランティア活動の支援。
管理組合員や管理員による専有部分内の電球交換、家具移動、簡単な修理対応、ゴミ収集、買物支援などの家事サービスの実施、災害時の高齢者世帯への支援策も検討する必要があります。
体力だけでなく、年金生活となり経済力も低下していく中、もうひとつ重要な対策は、住民一人一人の老後の生活設計をサポートする体制が必要です。
など様々な不安や疑問があります。
これら、年金・介護・後見人制度・相続などの不安や疑問を相談できる窓口が管理組合としてあれば、住人にとって大いに安心できる環境となります。
建物設備の老朽化・陳腐化が進む中、最終的に自分たちの住むマンションをどうするのか?
建替えるのか?長寿命化するのか?建物土地を一括売却するのか?
と言う合意形成を得ること。
即ち、マンションの終活をする事。
そして、住人一人一人の老後の生活設計をサポートしていくこと。
即ち、住人の終活をする事。
この2つを長期的な視点に立って、継続的に管理組合を支援していくことのできる知識と経験を持った専門家が必要となります。
騒音、駐車、駐輪、ゴミ捨て、ペット、喫煙、子供の悪戯など、トラブルは絶えません。
ところが、同じマンションに住む住人が直接注意などするのは、なかなか言いづらいものです。
そこで、マンション管理会社の担当者に対して「なんとかして!」となるのですが、担当者もこの手の問題には、及び腰です。
マンションは共同住宅です。本当は戸建て住宅以上に周囲への気遣いが必要な建物構造なのです。
ところが、近所付き合いをしなくていいからとマンション生活を選ぶ人がいます。
近所付き合いは、しなくてもいいですが、周囲への気遣いは必要です。ここを勘違いしている人が多いようです。
そもそも、年代も、家族構成も、それまで住んでいた生活環境も、価値観も異なる人々がある日から一斉にマンションという共同住宅空間で生活を開始するのです。
価値観の多様化がますます進む今の時代、同じ事柄でも、とらえ方、感じ方が大きく異なることは多数あります。
ですから、マンションはトラブルの起こりやすい住空間なのです。
ましてや、外国人も住むマンションでは、なおさらです。
外国人所有者が増えています。
マンション管理会社を対象としたアンケート調査によると、2013年度以降の新規受託管理物件の内
と7割強の物件で外国人所有者や外国人入居者がいるそうです。(国土交通省調査)
最近の新しいトラブルとして、シェアハウスや民泊に関するものがあります。
シェアハウスとは、空き家となっている専有部分を小部屋に改装したりして、若者などに短期賃貸することです。
民泊とは、空き家となっている専有部分を旅行者に宿泊施設として利用させることです。
いずれにしても、不特定多数の人が出入りすることで、防犯上の問題をはじめとして、騒音、共用設備利用の仕方、ゴミ出しの仕方など様々な問題が起こります。
専有部分のオーナーは外国に居たりするケースもあるため、問題解決の話し合いも簡単にできません。
騒音をはじめとした住人間のトラブルも、なくなりません。
根本的な解決の始まりは、お互いをよく知ることなのですが、トラブルが起こってからは、直接話し合うのも、理事会役員が仲裁に入るのも難しいものです。マンション管理会社も逃げ腰です。
数年前に話題となった横浜の杭打ち不正マンションほど深刻ではありませんが、施工不良のトラブルを抱えたマンションは、外壁タイルの浮き・落下、防水処理の不良、排水管の勾配不足など、けっこうあります。
これらの問題解決のために、分譲会社や建設会社などと交渉するのですが、それこそ専門性が必要ですし、交渉は長期化します。住民の意見をまとめあげるとともに、粘り強い交渉力が必要となってきます。
残念ながら、マンション管理会社は、親会社が分譲会社や建設会社であったりするので、あまり当てになりません。