大規模修繕工事の進め方

①修繕委員会発足

大規模修繕工事は、準備から工事完了まで最短でも2年程度かかります。中には3年~4年程度かかる場合もあります。そこで、大規模修繕工事専門の委員会を立ち上げて、複数年にまたがる検討を固定メンバーで行うよう「修繕委員会」を立ち上げます。

 

メンバーは公募します。希望者がいない場合は、理事や役員の経験者など声をかけます。必ずしも専門家である必要はありません。老若男女揃い、いろんな意見がでることが望ましい。特に常時在宅している人の意見は重要です。

 

「修繕委員会」は理事会の諮問機関と位置づけ、最終決定は「理事会」で行います。ですので、理事との兼任者をメンバーに入れておくことで、理事会との連携がスムーズになります。

 

専門委員会では、まず専門家(パートナー)への依頼方式(※)を検討・決定します。

その後、パートナーを決定し、大規模修繕工事検討開始を告げる総会を開催し、承認を得ます。

 

※責任施工方式か/設計管理方式かを検討します。


②調査診断

建物・設備の調査診断を行います。同時に居住者に対してアンケート調査も行い、不具合個所や要望などを把握します。その後、調査結果をまとめて、調査結果報告会を開催します。

 

③修繕基本計画策定

調査結果に基づき、工事範囲を検討します。

パートナーからの提案に、管理組合からの要望を加えたものがベースとなります。

調査結果と予算をもとにパートナーに工事範囲と工事予算書を作成してもらい、優先順位とどの項目を実施すればどの程度の費用になるかを検討して決めていきます。

 

工事範囲、予算、工期と時期を盛り込んだ修繕基本計画を策定します。その後、工事範囲説明会を実施します。

 

④見積参加業者公募及び選定

工事業者を公募し、見積依頼する業者を選定します。

 

公募するにあたって、会社規模、一定規模以上の受注実績を持つことなどの条件を検討します。

但し、必要以上の高いハードルを設定しないことが大切です。高いハードルを設定すると大手業者しか条件に適合しないことになり、結果的に安価で工事品質が優れている中小業者を排除することになってしまいます。

 

公募は、専門新聞(※1)やインターネットでの募集をお勧めします。

居住者や知人、パートナーや管理会社の紹介は、避けて下さい。談合が行われたり、紹介料が支払われたりすることも考えられます。

できるだけ、公正な公募を行い、競争原理を働かせて、見積額の削減を図ることが重要です。

 

公募書類(※2)を提出させ、公募してきた業者から6社から8社程度に絞り込み、見積依頼を行う。⇒一次選考

 

※1専門新聞には「建通新聞」「マンション管理新聞」などがあり、これらは掲載料無料です。

※2会社案内、工事実績経歴書、直近3年間の財務諸表など

⑤見積参加業者現場説明会開催

一次選考で残った6社から8社に対して、パートナーが作成した下記資料を提供して見積依頼を行う。

(1)見積要項書・・・建物概要、提出方法、提出日、工事日程、工事費支払条件など記載

(2)標準見積内訳書式(※)・・・工事予算書から価格を抜いた工事項目と数量を記載

(3)標準仕様書(※)・・・工事業者に対する工事指示書で、工事内容・工法・使用材料・設計図などを記載

(4)建物図面

 

※見積依頼した業者から提出される見積書が同じ工事内容・数量となり金額だけの比較ができるようになります。

 

次に「現場説明会」をマンションで行います。

パートナーが工事内容や条件などを説明します。談合等のことを考慮して、1社ずつ行うのが望ましいです。

質疑応答があった場合は、パートナーが集約して、公平を期すため全社に同じ回答を文書で行います。

⑥見積合わせ

業者から提出された見積書等(※)の内容で、パートナーが比較表を作成します。

これを基に、修繕委員会及び理事会で、2社から3社に絞り込みます。⇒二次選考

 

※(ア)工事見積書(イ)概略工程表(ウ)仮設計画書(エ)施工提案書(オ)現場代理人予定者の経歴書など

 

基本的には、見積金額の安い順から選びます。但し、異常な安値を付けてきた業者がある場合や、間違いが多い場合は、絞込みから外すなど考慮する必要があります。

 

絞り込んだ2社から3社に対してヒアリング(面接)を行います。

日が別々になると印象がかなり変わってしまうので、ヒアリングは原則1日で行います。

 

業者からのプレゼンテーションを聞き、質疑応答を行います。

ヒアリングには、営業担当だけでなく、見積担当、現場代理人にも参加してもらいます。

現場代理人の実績を含めた力量は、工事を円滑に進める上で、ウェートが大きなポイントとなります。

 

ヒアリングの後、修繕委員会及び理事会で、最終的に1社に内定するのですが、例えば、見積額が予算額をオーバーしている場合などでは、標準仕様書にこだわらない独自提案などをしてもらう機会を設けて、競争原理を働かせながら、業者選定を進めます。

⑦施工業者決定

最終的に1社に内定したら、工事範囲や工事仕様のすり合わせを行い、予備費(※)も含めた工事予算額を修繕委員会及び理事会で決定する。

 

※予備費とは、想定外の工事内容等に対して備えるもので、理事会の判断で支出できるものとします。

 

次に臨時総会を開催して、工事範囲・工事予算及び工事業者・工事発注金額について、承認決議を採択します。

 

総会承認後、工事発注契約を締結します。

⑧工事説明会

居住者に対して、工事業者及びパートナーから、工事内容・範囲及び工事期間中の注意事項などについての説明会を実施します。

 

大規模修繕工事は居住者が住みながらの工事となりますので、居住者の協力が欠かせません。

 

時には、子供向けの説明会を別途実施するケースもあります。

⑨工事着工

工事着工前には、近隣住民への挨拶も行います。事前に理事会と工事業者が打合せを行い、挨拶先を確認しておきます。

 

また、工事内容によっては、行政機関などに工事承認書類など提出が必要な場合もあります。

 

工事が始まってからは、パートナーが中心となって、仕様書どおりに工事されているか、工程表どおり進んでいるか、問題点はないか、などをチェックし、パートナー・工事業者・修繕委員会及び理事会の3者が定期的に打合せを行います。

⑩中間検査

工事中の足場解体前に検査を行います。

中間検査で問題なければ、中間工事代金の支払い承認を行います。

⑪竣工検査

工事業者からの工事完了報告を受けて、発注者(管理組合)による検査を行います。

パートナーの協力を得て、検査しますが、バルコニーなどは、各居住者にも不具合個所はないか、アンケート調査なども行います。

 

不具合個所は工事業者に手直しを指示します。

⑫手直し検査

手直し指示箇所の確認を行います。

⑬竣工・完成引渡し

手直しが終わって、手直し検査に合格したら、鍵の返却その他工事に関するものが全て引き上げられます。

 

完成引渡し後、「竣工図書一式(※)」が工事業者より引き渡されます。

 

※保証書、打合せ議事録、下地補修箇所を示した図面、工事仕様書、工事写真など

⑭定期点検(アフターケア)

大規模修繕工事には、瑕疵保証が付けられており、不具合があれば無償対応してくれます。

保証期間は工事個所・仕様により異なります。

 

例えば、屋上防水の漏水保証は一番長く、10年間。廊下やバルコニーの防水保証が5年間。外壁塗装が7年間。鉄部塗装が2年間などとなっています。