· 

老人ホームで消えた1140万円

「福岡市内の老人ホームに入居していた認知症の叔母の口座から、計約1140万円が複数のコンビニなどで引き出されていた」。

 

 

めいに当たる女性から、西日本新聞「あなたの特命取材班」に情報が寄せられた。叔母の死後に調べたところ、引き出し履歴は約4年前の1カ月間に集中していた。施設側は関与を否定するが、調査対象は在職者のみで、当時の職員は含まれていないという。福岡市は老人福祉法に基づき調査に乗り出す方針とのことです。

2016年12月の1ヶ月弱で67回計1140万引き出し

叔母は2014年、夫が亡くなったのを機に、東京から福岡市内の有料老人ホームに引っ越してきた。都内にあった土地の売却益などで多額の資産を保有。当時、既に90歳近く、施設内でも通帳が入った手提げ袋をいつも持ち歩き、その内容を周囲に見せることもあったという。

 

 年々、叔母の気性が荒くなり認知症の症状も悪化。女性の足もホームから遠のいた。19年6月、叔母は体調が悪化して入院し、施設を退所。叔母は同年9月に病院で亡くなった。

 

 その後、女性は叔母の通帳や印鑑が見当たらないことから、通帳の再発行などの手続きをした。銀行から取引履歴を入手したのは20年1月。施設に入居中だった16年12月3日~26日のわずか1カ月弱の間に、67回にわたって計1140万円が引き出されていた。

 

引き出し場所は18カ所。施設周辺のコンビニの現金自動預払機(ATM)を中心に、セブン-イレブン9店、ローソン5店など。額は1回に10万~20万円だった。

 

 女性によると、叔母は入所当時から単独では外出できなくなっていた。引き出し場所の中には、施設から数キロ離れたコンビニも複数あった。

 

女性は代理人弁護士を立てて施設側と交渉しているが、提出された当時の介護記録に外出の記載はなかったという。振り込め詐欺の被害に遭った可能性は低い。

 

 女性は「施設職員が叔母に付き添うか、誰かがカードを持ち出したとしか、考えられない。叔母がこれほどのお金を頻繁に引き出す理由はないはずだ」と話す。入居費など毎月必要な費用は、口座から引き落とされていたが、この1カ月以外の期間で、ATMからの引き出し履歴はなかった。

絶えない金銭トラブル

20年7月、女性は施設の運営会社に調査を求めた。10月時点の回答は「銀行口座から引き出した人物を特定する情報は見つからなかった」。その後のやりとりで、施設側が調べた職員は現職の7人にとどまり、当時の在職者まで調べていなかったと分かったという。

 

 施設側は取材に「個人情報なので、該当する人物がいたかどうかも含め、回答できない」としている。

 

 女性は、老人福祉法に基づく施設への立ち入り調査を福岡市に要請。同市高齢社会部は取材に「一般論として、問題がある事案については徹底的に調べる」としている。

 

口座から1千万円超を引き出されていた女性が暮らしていたのは、住宅型の「有料老人ホーム」だった。現金や預金は入居者自身で管理するのが原則だが、認知症などで十分な判断能力がない場合、家族の承諾を得て施設側が管理するケースも。金銭トラブルは全国で絶えない。

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い利用者と親族の「接点」が減る中、多くの施設は神経をとがらせている。

 

経済的虐待 2019年度41件発生確認

厚生労働省によると、高齢者施設や訪問介護に絡み、施設職員らが高齢者の金品を着服したり、無断流用したりした事例は「経済的虐待」と呼ばれ、2019年度に全国で計41人が被害に遭ったと報告された。

 

 福岡県では19年度までの5年間に計7件13人。有料老人ホームを利用する80代女性の預金口座から、管理を請け負っていた施設長が無断で現金を引き出した例もあった。認知症で記憶が確かではない利用者もおり、「氷山の一角」である可能性もある。

 

 同県によると、比較的自立した高齢者が入居する有料老人ホームでは、金銭は原則自己管理。冒頭の女性も自身で管理していたという。金庫に入れていたかどうかなどは定かではない。

 

 トラブル防止のため、そもそも「金銭を持ち込まない」ことを入居条件とする施設もある。

 

 金銭の持ち込みを禁じる福岡市の介護付き有料老人ホームでは、利用者がどうしても必要とする場合は施設側が立て替えている。実際には「近場や通販での買い物などに、家族から受け取る現金や自分の通帳を使う利用者はいる」と施設関係者。買い物のための外出が健康維持につながる面もあり、利用者の意向を尊重して黙認しているという。

 

 

 ただし、カードや通帳と一緒に暗証番号のメモを持ち歩く高齢者もいる。施設関係者は「その都度声を掛け、注意を促すしかないのが実情」と打ち明ける。

後見人制度の普及と内容充実を

以上が西日本新聞の記事ですが、「経済的虐待」はどこでも発生する可能性があります。後見人制度でも後見人等の不正行為が散見されます。これらの不正発生の芽を除去しつつ、普及することが求められます。