マンション地下駐車場消火設備誤作動で4人死亡

東京・新宿のマンション地下駐車場で15日午後5時ごろ、二酸化炭素の消火設備が誤って作動する事故が起き、これまでに4人の死亡が確認されています。

 

二酸化炭素を使う消火設備の誤作動は、なぜ、起きたのでしょうか。

 

一般的な設備では、起動装置が作動すると、まずシャッターが下りて、密閉されます。そして、二酸化炭素が放出することで、酸素の濃度を低下させ、消火する仕組みです。

 

起動装置が作動してから、二酸化炭素が放出されるまでには、最低20秒以上、時間がかかり、緊急停止用のボタンもついているのが一般的です。二酸化炭素を使う消火設備の場合、一瞬で部屋中に二酸化炭素が充満し、何も見えなくなります。視界が明らかになったときには、火は完全に消えています。

 

ガス系消火設備にはどんなものがあるか

このようなガス系消火設備には、上表のように大きく「不活性ガス消火設備」と「ハロゲン化物消化設備」があります。

 

「不活性ガス消火設備」は酸素濃度低下させることで消化し、「ハロゲン化物消火設備」は燃焼連鎖反応を抑制します。

 

二酸化炭素は人命に非常に危険で、放出前に退避することが必要です。ガス放出方式は原則手動ですが無人室の場合は、自動放出設定も可です。今回、「手動」だったのか「自動」だったのか私には不明ですが、「自動」だったと思われます。作動後、20秒間の間に退避する必要があります。緊急停止するボタンもあります。

 

事故原因

駐車場には最大24台の車を収容することができ、15日作業員は午前8時半から天井の板およそ200枚を張り替える作業にあたっていたということです。

 

二酸化炭素が放出された時、地下にいた6人のうち30代の作業員だけがはしごの近くにいたためなんとか地上に脱出することができました。

ほかの作業員5人はいずれも地下の駐車場内で倒れているのが見つかり、このうち4人が亡くなってもう1人も意識不明の重体になっています。

 

自力で逃げた作業員の証言によりますと、現場では二酸化炭素が放出される前に避難を呼びかけるアナウンスが流れたということですが、ほかの5人は何らかの理由で逃げることができず、短時間で意識を失ったとみられています。

 

二酸化炭素の放出は、消火設備が作動してから20秒以上間隔をあけなければならないと法律で定められていて、メーカーによりますと、作動すると

通常は警告音とともに「火事です。消火剤を放出します。危険ですので避難してください」というアナウンスが流れるということです。

 

作動した原因は現時点、究明中です。推測ですが天井版張替えの際に、火災感知器の配線をショートさせたのかもしれません。

 

豊橋技術科学大の中村祐二教授(火災物理科学)は「工事をする際は消火装置の電源を落としたり、手動に変えたりする必要があるが、できていなかった可能性もある。誤作動の中では最も多い原因の一つだ」とした。

 

二酸化炭素を放出する消火設備登録件数は増加中

総務省消防庁によりますと二酸化炭素を放出するタイプの消火設備は地下駐車場などに多く設置されていて、設置の際に業者が任意で行う登録は年々増加しています。

 

2006年(平成18年)に始まった任意の登録制度のため、全ての設備が登録されているわけではありませんが、二酸化炭素を放出する消火設備の登録件数は2010年(平成22年)に1687件、2015年(平成27年)に2700件、2020年(令和2年)に3608件と年々増えています。

 

消防設備関連の会社でつくる日本消火装置工業会によりますと二酸化炭素を放出するタイプの消火設備は水を使った消火と比べて電気設備や機械への影響が小さいため、地下にある機械式の駐車場などの多くに設置されています。

 

機械式の駐車場にはふだん、人が立ち入らないため、二酸化炭素を使う消火設備が設置されてきたということです。

 

今は、比較的安全な窒素を放出する設備を導入する施設も増えていますが、二酸化炭素の設備の方が設置のコストが低いため、今も多くの施設で設置が進んでいます。

 

日本消火装置工業会は「ふだんは人が立ち入らないところでも今回の事故のように危険が及ぶ可能性がある。できるだけ安全性の高い窒素を使う流れになってほしい」としています。

消防庁 安全対策の徹底を通知

15日の事故を受けて総務省消防庁は全国の自治体に対し、二酸化炭素を放出する消火設備の近くで工事を行う場合は元栓を閉めてから工事を始めるなど、安全対策を徹底するよう求める通知を改めて出しました。

 

通知では二酸化炭素を放出する消火設備の近くで工事を行う際、消火設備の点検の資格を持つ人などが立ち会って安全管理を行うことや誤って消火剤が放出されないよう元栓を閉めてから工事を始めることなどを求めています。

 

実はこのような通知は、昨年(2020年12月23日)も出されています。(消防予代0号)

 

2020年12月22日に名古屋市の立体駐車場において、誤作動で放出され、死者1名、負傷者10名の事故が発生したばかりでした。そして、2021年1月には東京都でも消防設備点検作業時に放出され作業員がなくなっています。

 

消防法では、建物の所有者や防火管理者が作業員などに対し、消火設備の使い方や危険性を周知するよう定められている。同じような事故が相次いでいる現状を考えると、周知だけではなく、専門的な知識がある消防設備士などが現場に立ち会うといった義務化が必要かと思います。