分岐点にあるマンション管理

マンション「管理拒否」増加 前代未聞のはずが 管理会社の事情は(朝日新聞デジタル2021/9/7)

マンションの清掃や資金管理などを委託していた管理会社から管理を断られるケースがと都市部のマンションを中心に増えています。新たなの管理会社を探すのも難しく、見つかれなければ「管理不全」にも陥りかねません。

 

記事によれば、2020年1月、川崎市内にあるマンションの管理組合の理事長は、管理会社の担当者から「会社の事情もあり、もう契約の更新はできません」と言われたそうです。「晴天のへきれきで、かなりショックだった」

 

更新拒否の理由について理事長は、築43年と古く、管理会社にとって「うまみ」がなくなったためではないか、とみる。

マンション管理会社の変更 増える相談 実はリスクも(朝日新聞デジタル2020/10/17)

一方で、コロナ禍で自宅にいる時間が長くなる中、分譲マンションに住む人から不動産コンサルティング会社に対し、管理会社変更の相談が増えているそうです。ただ、変更にはリスクも伴うと専門家は助言します。

 

記事によれば、埼玉県内の分譲マンションに住む男性(42)は、新型コロナウィルスの感染拡大で緊急事態宣言が出て以降、在宅勤務が基本になった。日中も家で過ごす時間が増え、マンションの管理状況が気になるようになった。共用部分について、掃除がきちんとできているのか、毎月の管理費は適正なのか?男性は「管理費などのコストを下げられるなら下げたい」と話す。

 

ちなみに、国土交通省の調査によると、管理組合が管理業務を行っているのは6.8%に過ぎない。およそ90%は管理会社に委託しています。

管理会社へ委託している管理組合は93%

2018年の国土交通省の調査によると、管理組合が全ての管理業務を行っているのは6.8%に過ぎない。およそ93%は管理業務の全部または一部を管理会社に委託しています。

 

分譲時に分譲業者が指定したマンション管理会社に引く続き委託している管理組合は73.1%です。管理会社を変更したことのある管理組合は20.9%でした。

 

ほとんどの管理組合は分譲時の管理会社に引き続き管理業務を委託しているの実態です。

管理組合と管理会社は利益相反関係

そもそも管理組合と管理会社は利益相反関係にあります。

 

管理組合はなるべく少ない費用支出で、日常の運営管理業務や大規模修繕工事に代表される建物設備の維持修繕業務を行いたい。

組合員の管理費・修繕積立金などの費用負担を少なくしたい。

 

一方、管理会社はコストをかけずに、売上・利益を確保したい。

 

ところが、管理組合側の区分所有者は、管理組合運営に無関心です。

30代、40代、50代であれば、管理組合の運営より自分や家族のことの方が気になります。また収入面でもある程度見込める部分があるので、管理費・修繕積立金の値上げなどもさほど負担にはならないかもしれません。

 

管理会社の方も、高めに初期設定された管理費のおかげで、安定した売上・利益を確保することができます。

 

また、適時発生する建物設備の修繕業務も、割高な見積でも管理組合の承認を得て、大きめの売上・利益が確保できます。取引先業者からのバックマージン(手数料)も安定した収入源となり、魅力的である。

 

めったなことで、他の管理会社にリプレースされることもなく、20年、30年と継続的取引が期待できます。

老朽化・高齢化が両者に緊張関係を生む

ところが、築40年、50年となり、住民も60代、70代、80代となってくると管理組合と管理会社の間に緊張関係を生みます。

 

築40年、50年となってくると、建物・設備の様々な部分の劣化が進み、修繕範囲が広まり、修繕方法も難易度が増して来ます。おまけに修繕周期も短くなってきます。

 

当然に、修繕費用は嵩みますが、修繕積立金は不足します。

 

一方、住人も高齢化が進み、年金生活者となり、修繕積立金の値上げなどには安々と応じられません。

 

必要な修繕工事は修繕範囲が縮小されたり、延期されたりするようになります。

管理会社にすれば、期待した工事売上が得られなくなります。

 

管理組合は、不足する修繕積立金を少しでも補うために、管理費を値下げして、その分修繕積立金に廻そうと管理会社に値下げ交渉を行います。

 

そうなると管理会社は工事売上も期待できないし、管理費の値下げ要求もあり、「うまみ」がなくなります。おまけに住人が高齢化することで、孤独死を始めとした予期せぬトラブル対応に巻き込まれる危険性も高まります。

 

それなら、撤退して、「うまみ」のある管理組合へシフトしようとの動きが活発化してきます。

避けられない分岐点

老朽化と高齢化に伴う、今述べた経緯は避けられません。

 

築20年を超えたら、管理組合は自分たちの住むマンションをどのように運営していくのか考え、準備を始める必要があります。

 

修繕積立金を大きく積み増し、管理会社に値下げ交渉などする必要のない財務体質とするのか?

 

自主管理を目指し、管理会社に頼らなくてもよい体制とするのか?

マンション管理士などの専門家を活用し、管理組合、管理会社、マンション管理士の3者がWinWin関係となる体制を構築していくのか?